その日わたしは
その日わたしは
演唱者:湯川潮音
その日わたしは
音楽の中にいたから
あなたのいるところまで
駆け出してゆけた
その日わたしは
絵筆の先の方にいたから
汚れた下着を洗う
ナイチンゲールの
帰る家の灯りを
点すことができた
その日わたしは
本の片隅にいたから
言葉の刃に赤い血をつけても
小さく切り刻むのは茹で卵だった
その日わたしは
フイルムの中にいたから
嘘も本当も同じ顔して写り
お互いのことをよく知っていると
わかっていた
その日わたしは
映画の一コマにいたから
あなたがぶたれたとき
痛いのはわたしじゃなくて
わたしには見ていたという
役があると知った
その日わたしは
愛について考えたから
自分をやめようと
棄ててしまおうと思っても
自分を嫌いにだけは
ならなかった
その日わたしは
音楽の中にいたから
あしたともきのうとも
手をつなぎながら
ここにいるよと
謳われていた
その日わたしは
その日わたしは
なくても生きていけるものに
生かされていた