君がため惜しからざりし命さへ
長くもがなと思ひけるかな / 藤原義孝
恋すてふわが名はまだき立ちにけり
人知れずこそ思ひそめしか / 壬生忠見
忘らるる身をば思はず誓ひてし
人の命の惜しくもあるかな / 右近
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば
忍ぶることの弱りもぞする / 式子内親王
恨みわびほさぬ袖だにあるものを
恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ / 相模
逢ふことの絶えてしなくはなかなかに
人をも身をも恨みざらまし / 中納言朝忠
思ひわびさても命はあるものを
憂きに堪へぬは涙なりけり / 道因法師
筑波嶺の峰より落つるみなの川
恋ぞ積もりて淵となりぬる / 陽成院
めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に
雲隠れにし夜半の月かな / 紫式部
難波潟短き蘆のふしの間も
逢はでこの世を過ぐしてよとや / 伊勢
人も愛し人も恨めしあじきなく
世を思ふゆゑにもの思ふ身は / 後鳥羽院
これやこの行くも帰るも別れては
知るも知らぬも逢坂の関 / 蝉丸
難波江の蘆のかりねのひとよゆゑ
身を尽くしてや恋ひわたるべき / 皇嘉門院別当
忍ぶれど色に出でにけりわが恋は
ものや思ふと人の問ふまで / 平兼盛
由良の門を渡る舟人かぢを絶え
ゆくへも知らぬ恋のみちかな / 曾禰好忠