ムシとフラワー
オレンジのガーベラはもうない
さよならも言わずに散ってから一ヶ月
蟲は今日も昔のことだけ思い出しては淚ぐみ
雨が降って濡れてもまだオレンジの花の葉を食べ續け
花になりたいおもった
まゆを作ろうひとりきりの世界に包まれたいなあ
蟲はある朝ひらめきましたそして紡いだつないだ
もう思い出もよろこびもいらない
もう信じる氣持ちなんていらないいらない
まゆを作ろうひとりきりの世界に包まれていたいなあ
冬がきて春の芽が吹いて
オレンジの光が差し迂んだ夏の日
蟲は今日も眠り續けた何も思い出さず考えず
寒いとか暖かいとかも感じることなく一年を過ごしていた
ひとりきりで
まゆが破れたある強い日差しの朝突然に!
蟲に降り注いだオレンジの光の洪水戶惑い
もう外に出るときが來たと知った
もう包まれていることはできないできない
蟲はゆっくり外に出て顏を上げると…
オレンジの花!
“オレンジの花! ガーベラの花!”
叫んだただ大きな聲で
うれしい熱でカラダが浮かび
そのままただ羽を廣げた
蟲は飛んでいた花より高く
ガーベラと蟲のものがたり