駆込み訴え
駈込み訴え
越级申诉
太宰治
太宰治
申し上げます。申し上げます。
启禀大人,启禀大人。
旦那さま。あの人は、酷(ひど)い。
那个人、好过分。
酷い。はい。厭(いや)な奴です。
太过分了。啊...可恨的人。
悪い人です。ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。
恶毒的人!呜...我已经忍无可忍,不能再容他活着了。
はい、はい。落ちついて申し上げます。
是、是。我已经冷静下来向您禀报。
あの人を、生かして置いてはなりません。
那个人不能再容他活下去了。
世の中の仇(かたき)です。
他是世界的公敌!
はい、何もかも、すっかり、
是、我什么都说、
全部、申し上げます。
我会原原本本,一五一十的全部说出来。
私は、あの人の居所(いどころ)を知っています。
我知道那个人在哪里。
すぐに御案内申します。
这就把他捉拿归案
ずたずたに切りさいなんで、
去把他切碎、
殺して下さい。
杀了他!
あの人は、私の師です。
那个人,是我的师!
主です。けれども私と同じ年です。
我的主宰。然而却与我同年生
三十四であります。
都是三十四岁。
私は、あの人よりたった二月(ふたつき)おそく生れただけなのです。
我、只比他晚生两个月而已。
たいした違いが無い筈だ。
没什么大不了的差别。
人と人との間に、そんなにひどい差別は無い筈だ。
人与人之间、应该没有那样可怕的悬殊吧!
それなのに私はきょう迄(まで)あの人に、
可是,至今为止,我被那个人、
どれほど意地悪くこき使われて来たことか。
怎样恶意的使唤。
どんなに嘲弄(ちょうろう)されて来たことか。
又是如何恣意的嘲弄。
ああ、もう、いやだ。
啊!受够了!
堪えられるところ迄は、堪えて来たのだ。
能忍的我都忍了。
怒る時に怒らなければ、人間の甲斐がありません。
当怒不怒,枉自为人!
私は今まであの人を、どんなにこっそり庇(かば)ってあげたか。
迄今为止,我是如何暗暗保护着那个人的、
誰も、ご存じ無いのです。
谁也不知道。
あの人ご自身だって、それに気がついていないのだ。
恐怕就连他自己都没有意识到吧!
いや、あの人は知っているのだ。
不、那个人知道。
ちゃんと知っています。
他是知道的!
知っているからこそ、尚更あの人は私を意地悪く軽蔑(けいべつ)するのだ。
正因为他知道,他才更加恶意的藐视我,故意贬低我。
あの人は傲慢(ごうまん)だ。
那个家伙太傲慢了!
私から大きに世話を受けているので、
因为受了我太多的照顾、
それがご自身に口惜(くや)しいのだ。
所以觉得心有不甘。
あの人は、阿呆なくらいに自惚(うぬぼ)れ屋だ。
他是个傻子一样的自大狂。
私などから世話を受けている、ということを、
受到我照顾这种事情、
何かご自身の、
对他来说
ひどい引目(ひけめ)ででもあるかのように思い込んでいなさるのです。
应该是一种耻辱!
あの人は、なんでもご自身で出来るかのように、
他好像觉得自己无所不能、
ひとから見られたくてたまらないのだ。
急不可耐地想要证明给世人看。
ばかな話だ。世の中はそんなものじゃ無いんだ。
笑话!人生可不是这么简单的!
この世に暮して行くからには、どうしても誰かに、
既然活在这世上,便怎么也免不了要向谁、
ぺこぺこ頭を下げなければいけないのだし、
卑躬屈膝、
そうして歩一歩、苦労して人を抑えてゆくより他に仕様がないのだ。
继而一步一步,压榨着他人辛苦攀爬,除此之外别无他法。
あの人に一体、何が出来ましょう。
那个人到底做得了什么?
なんにも出来やしないのです。
他什么都做不成!
私から見れば青二才だ。
我看他不过是个乳臭未干的小鬼罢了!
私がもし居らなかったらあの人は、
要不是有我在,
もう、とうの昔、あの無能でとんまの弟子たちと、
他和那帮愚蠢无能的弟子们、
どこかの野原でのたれ死(じに)していたに違いない。
一定老早就倒毙在哪块荒郊野地里了。