Weather Report
「気球」
何千機もの気球が
ゆっくりと地上を離れていく
虹色の荒野
年老いたぼくらがいた
植物も思い出も
かたちをとどめないよ
ここは最後の國
ぼくらは孤獨なアインシュタイン
互いの聲耳も貸さず
もうすぐおしまいだと
誰もが信じていたけど
ここはおじいちゃんと
おばあちゃんの國
それはただのながい幼年期みたい
トンネル抜ければそこはまた大きな
トンネルのなか
いつから列は
ここでつっかえていたのか
眼を閉じ耳を塞ぐ
誰かの溫度も忘れた
迷走するボロい機械
それでも歯車は
チクタク回転している
金屬の粉振りまいて
チクタク回転している
金屬の粉振りまいて
チクタク回転している
眼を閉じ耳を塞ぐ
ぼくらは孤獨なアインシュタイン
震える夜の闇に
これは、はじまりかも
ただただ気配がしている
とっくに無視はできないよ
あなたは孤獨なアインシュタイン
空想する春のマシン
これははじまりだよ!
ここは歴史のまんなかさ
ここは歴史のまんなかさ
チクタク回転している
ここは歴史のまんなかさ
チクタク回転している
「砂漠」
砂時計を風吹き荒れる
時は過ぎただ吹き溜まる
砂時計が木々を揺らせば
果物は種を宿して浮かぶ
結わえ結わえ
電極を地表に
それが真実だ
曲線せまる波うちぎわ
はりつめた糸針の先
終わりは悲しい
誰も知れない
砂時計を風吹き荒れる
時は過ぎただ吹き溜まる
人消えた晝の都會で
たちのぼる煙草の煙
結わえ結わえ
電極を地表に
それが真実だ
曲線せまる波うちぎわ
はりつめた糸針の先
毒孕んだ花が咲いたのさ
遙か古代のテレビドラマ
種子まとって砂漠は拡がる
最後まで
終わりは悲しい
誰も知れない
砂時計を風吹き荒れる
時は過ぎただ吹き溜まる
「亀裂」
「岩」
「皿(ハッピーファミリー)」
パーティーは続いている
終わりそうに見せかけているが
ケチャップで引いた國境に
ピザはほぼ型崩れ
我が子は大切だよ
他人の子よりも
みんな賛成だよ
友達だものね
友達だものね
あのとき略奪してしまってごめんね
慾望が欲してるのは
慾望そのもの
遊びさただの遊びさ
パーティーは続いている
クラッカー打ち鳴らしてさ
コーラの油田奪い合う
冒険小説深読みしながら
我が子は優秀だよ
他人の子よりも
みんな賛成だよ
友達だものね
あのとき略奪してしまってごめんね
慾望が欲してるのは
慾望そのもの
400年前のあの混亂を
うまく再現するのさ
思い出せるかな
遊びさただの遊びさ
「起爆」
きみは戦爭に興味がないしね
戦爭はきみに興味がないしね
「投擲」
デスレースだ
丘のまんなかで
白いコンバースと
青いたてがみで
目の前の何もない草原
先発はまだ帰らない
それでも
とびだせばすぐに夢中になるさ
身體投げだすだけ凍る草原へ
客席も
カメラ放送席
失格までも
ない
コースもない
選手の眼映る萬國旗
飛ぶヘリコプター乾いた風
迷いなくとびだせば
不安は消えるものさ
記録叩き出すだけ凍る草原へと
ハイライトはCMの後で
スポンサーは周知のとおり神さま
銀行家の庭で様子うかがっている
ゲーム結果はCMの後で
スポンサーは周知のとおり神さま
いつも一等賞
死者は一等賞
花をくわえさせられ話せない
隠されたことが隠されている
人間を知り抜いた
よくできたルールだ
「穴」
誰ひとりいれるな
その穴のなかには
年齢性別問わず
年収國籍問わず
誰ひとりいれるな
そのようにきいております
誰ひとりいれるな
その穴の內部を
のぞいた男がいた
砂丘から望遠鏡で
翌日風邪ひいた
そのようにきいております
「空地」
門を出てどこかへと行くよ
肥えた土地には貧しい果てがあると
知っていても
高く伸びるビルにだって
限りはあるし
無視をするや否や雷落ちるよ
おもいの丈を叩きつけろ
ある男はいうけど
良くいえばオールドファッション
ただの時代遅れ
きみの聲は聞こえたけど
言葉は屆かない
そうさ
水彩畫に描いた曇り空を
ベランダのホースでもって
洗い落としてみれば
そこにはなにがある?
ただのぬれた紙がある
「塔(エンパイアステートメント)」
ビラを撒いた
エンパイアステートビルの屋上から
観光を裝って
地下鉄のぼれば五番街
見上げた
都市を賑やかす大晦日
歩いた
眩しい身體を橫たえた
浴槽で
眠れるゲストに告ぐ夜の
警報
ハレルヤ!
ニューヨーク午前0時
ベトナムは正午過ぎ
ハレルヤ!
ニューヨーク午前0時
ヴァレッタ朝の6時
ビラを撒いた
輝く夜の地上に
浮かぶ髑髏たち
アーティストが踏み潰した
みんな傷ついた羊飼い演じた
著名人たちがもみ消した王國
ハレルヤ!
ニューヨーク午前0時
ベトナムは正午過ぎ
ハレルヤ!
ニューヨーク午前0時
ヴァレッタ朝の6時
ハレルヤ!
新宿午前0時
ニューヨーク朝10時
ハレルヤ!
新宿午前0時
ニューヨーク朝10時
血で血を洗う
血で地を洗う
「真夜中」
今日の放送は終了したと
そっけない畫面のテロップ
遠くのクラクションサイレンの音
彼女の夜はやかましい
見えない蟲が一匹
聞こえない聲で質問攻めさ
彼女の夜はやかましい
理由を述べよと執拗に
鳴り止まない囁きに
眠れそうにないなら
一晩じゅう一緒に起きていても
いいよ
深夜のタクシー気怠く流れる
國道死神鎌を振る
ヘルツ博士のよどんだ眼に
真夜中のトロフィー
誰かがギターを弾いている
もううんざりだ
彼女の夜はやかましい
理由を述べよと執拗に
鳴り止まない囁きに
追いつめられ壊れそうなら
一晩じゅう夜を傷つけても
いいよ
誰かがギターを弾いている
いいよ
「夏至」
ぼくは靜かにページめくった
黴の匂いにきみは目醒めた
ああここはどこからも
遠ざけられた場所
海は風に凪ぐ
物いわぬ便箋のように
鳥は靜かに翼たたんだ
夏がおわれば夏がはじまる
過ちをおかした
海辺の行列
途方に暮れ微睡む
罰を忘れられて
止まる世界でページめくった
いまも目次にたどり著けない
いまも目次にたどり著けない
「潛水」
もうおやすみ
ここはどうみても公平な世界
手近な価値をはかるまえに
天秤を疑ってみてごらん
一度でも晝に夢をみたら
おめでとう
どんな色をしているの?
どんな味がするんだ?
人がいつか飛び込む
海の底はさあ
誰も知らないことは
一番近くにあるよ
誰も知らないことは
もうおやすみ
皿の上織りなす凡庸な舞台
餘った役は殘っていないのさ
そこは帰るべき家ではない
演じる場所を今も探しているんだね
どんな色をしているの?
どんな味がするんだ?
人がいつか飛び込む
海の底はさあ
誰も知らないことは
一番近くにあるよ
誰も知らないことは
優しい人をさがすのはやめたよ
飛び込む海はきみのもの
どんな色をしているの?
どんな味がするんだ?
きみがいつか飛び込む
海の底はさあ
どんな色をしているの?
どんな味がするんだ?
きみがいつか飛び込む
海の底はさあ
「新聞」
円の中心に立って雨を待ち望むとき
人は守られている空想の卵のなか
もう一歩も踏み出せない
外の世界で砂埃が舞っている
ラジオが放送されている
息も絶え絶えに
夜の闇を瞬くシナプスの列
カメラのフラッシュ
ショーウィンドウ
円の中心に立って雨を待ち望むとき
人は守られている空想の卵のなか
誰かが何かを吹き込んだ
頭のなかテープレコーダー
人はそれを記憶と呼んだ
頭のなかテープレコーダー
原音を忠実に再生していると
誰もが口をそろえて
新聞紙はそう言った
雑音に満ちた數世紀をまたぐ
新聞紙はそう言った
雑音に満ちた數世紀をまたぐ
名前が足りない
名前が見つからない戦爭があって
言葉がだぶつく
言葉があり餘る季節がきた
いつでも視線を感じている
新聞紙はそう言った
暴風雨が踴る
おびただしいアンテナをなぎ倒して
それは人間のような
かたちをしている
それは鳥のようなかたちをしている
それは衛星のような
かたちをしている
それは電波のような
かたちをしている
それは塔のようなかたちをしている
それは箱のようなかたちをしている
名前が足りない
名前が見つからない戦爭があって
言葉がだぶつく
言葉があり餘る季節がきた
いつでも視線を感じている
新聞紙はそう言った
雑音に満ちた數世紀をまたぐ
新聞紙はそう言った
雑音に満ちた數世紀をまたぐ
新聞紙はそう言った
雑音に満ちた數世紀をまたぐ
新聞紙はそう言った
雑音に満ちた數世紀をまたぐ
「大陸」
「船」
夜は黒い
夜は深い
放送はこれでおしまい
住宅街眠る気配で
子供が泡立つのさ
朽ちた燈檯から船は出る
浮かぶ浮かぶ浮かぶ
消える
夜は黒い
夜は深い
つまさきを浸し遊ぶ
土深く秘めた熱で
子供は気化していく
霧立ちこめる沖へ船は出る
浮かぶ浮かぶ浮かぶ
消える
石炭の臭いで犬が乾いた
霧の向こうでラッパが鳴り響くのさ
夜は黒い
夜は深い
放送はこれでおしまい
住宅街眠る気配で
子供が泡立つのさ
朽ちた燈檯から船は出る
「脫皮中」
「脫皮後」
きみが持つピカピカの
腐らないやつを
ちょうだいぜんぶちょうだい
透明な樹液に集まる
うつろな目した昆蟲たち
あしたはどこへ行こう
孤立無援のまま
それだけできみは腰抜けではない
君が乗る戦闘機のなか
花敷き詰めて贈るよ
はじめから抜け殻だったら
もっと世界が好きになれたかな
あしたはどこへ行こう
孤立無援のまま
それだけできみは腰抜けではない
「大砂漠」
「鉱山」
聖なるビルのふもと
電磁波の降るなかを
ぼくは歩いて帰ろう
見上げた空は虹色
螺旋の樹にのぼる
21人の子供
朝を隠して夜を消す
山は靜かにたゆたう
帰ろう
聖なるビルのふもと
電磁波の降るなかを
ぼくは歩いて帰ろう
見上げた空は虹色
「開拓地」
月を漂白してみることはできても
ふれることはできない
いつも手ざわりは
この手のなかあるけど
冷たく圧し黙ったまま
向かい風のなか目を凝らしてみれば
空っぽの小屋が佇んでいる
その歪なかたちした楽器の
名前を誰も知らない
歌をおぼえたての外國語で歌う
帽子深く隠れて
向かい風のなか目を凝らしてみれば
空っぽの小屋が佇んでいる
強い強い風が強い風が
強い強い強い風が吹いた
向かう場所はいつでも荒れ地だった
蟲たちは土に凍る
遮るものもなく
隔てられもしないけど
それは迷路だった途方にくれた
ようこそ
ごきげんいかが
孤獨な旅人
おなかが空いたら
食事にしようよ
ようこそ
ごきげんいかが
祈りが終わったら
食事にしようよ
おなかが空いたら
食事にしようよ
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