何れ菖蒲か杜若
行く春の風過ぐる辺
春日間風吹一隅
麗しき男のありけるに
那一名美丈夫
楽しくもしどけなき性に
即便歡欣卻因漂泊宿命
業もなく日暮らし徬徨ひき
無可奈何只能終日徬徨
あ、あひなし日次ぎこそ同じ
啊啊同樣拮据的每一日
この月も退屈せざるにや
此月也只得無趣度過
花衣細し女の二人
那身著花衣的兩名美人
其の日にぞたまたま逢ひき
於那天偶然相遇
あはやあはや美しなれや
唉呀那唉呀那真是美麗啊
いみじきこと
那是何等美不勝收
如何ばかり待ち侘びたる人の
雖是發現夢寐以求之人
見付くるなれば然れども此れ左右無し
卻又不知該作何選擇
何れ菖蒲か杜若
菖蒲杜若難擇一
夜さ見合ふ然るべきにこそはありけめ
當夜裡入夢時或許有緣相逢吧
戀ひ侘ぶこと更にもあらず
相思成疾已無法治
寄る人の見えぬもすべなけなくに
卻也無法見得心儀之人
敷き栲の黒髪の艶に
披散禢上的黑髮光澤
曇り夜の惑ひし指先の
為一片朦朧而迷惘的指尖
茜さす君の惚るる顔も
你染上艷紅的痴迷面容
射干玉のいと果敢無かりし夢
都成了漆黑無比的虛幻夢境
あはやあはやいと辛きこと
唉呀那唉呀那是何等折磨
青き花の間に浮く月に問ふ
問向浮現蒼藍花朵間的明月
あなやいと難きこと
唉呀那是何等難題
応へることも能はず
連月兒也無法回應
何れ菖蒲か杜若
菖蒲杜若難擇一
憎き人如ならば去りやはあらぬ
若為可憎之人是否就能如此離開
花を濡らし風に移ろふ
濡濕花朵隨風而飄
兄の君の心は夜露の如し
我心就如那秋夜露水
何れ菖蒲か杜若
菖蒲杜若難擇一
うら戀し思ふ人よ幾許かなしや
暗地愛慕的人啊不知有多少
なれば去らむや遠つ國へ
既是如此便遠行至遠國吧
未だ見ぬ天雲の遙かなる國
那從未見識過的天涯遙遠國度